「本の供養をしたいのですが…」
ある日、私たちの元に1本のお電話をいただきました。
ご依頼主は、創業33年を迎えた、
医療関係の本を主に取り扱う出版社の社長様。
ご供養の対象は、「世に出ることの叶わなかった書籍」
とのことでした。
「ただ処分するだけでは本が気の毒で…。普段から仕事の相棒として
お世話になっていることへの感謝を込めて、供養してあげたい」
社長様はそうおっしゃいました。中でも特に、
「本は我々にとって“生命体”なんです」
というお言葉が心に残りました。
私たちにとって、「本の供養会」は、今回初めてのご依頼です。
しかしこれまで、人形供養会など思い入れのあるお品の供養をお手伝いさせていただく経験を重ねてきました。供養する方に、そのお品との思い出をふり返り、ご自身に与えられたものを心に刻む時間を持っていただくことが、新しい一歩を踏み出すために大切だと感じています。
出版社の皆様にとって「本」は、お仕事の相棒。同時に、手塩にかけた作品であり、また生活を支える糧でもあると思います。そこで、改めて「パートナーとしての本」に意識を向けていただける会になればと考えました。
当日は、社員の皆様、お取引先の皆様約60人が参列される中、会社の会議室で供養会をお手伝いしました。
開式前から、お葬式のような良い意味での緊張感が空間を満たし、いよいよ定刻に。
最初に、このたびの主役「本」を会社の歴史とともに振り返る映像をお作りし、上映しました。
式中、供養をお願いしたご住職の、こんな法話が印象的でした。
「紙などの原料がすべて自然から作られていることを考えると、本もまた命。
自然から生まれ、自然に還っていく、そういった物に対しても
感謝の気持ちを持てること、また物に限らず、
他者のために行動できることは素晴らしいのです」
私たちは皆様に献花と同時にお手向けいただくものとして、「本のしおり」をご提案させていただきました。
そのしおりは、本が発行されるときに使われる注文票です。
そこに社員様お一人お一人から、本に対してのメッセージを書いていただきました。
そこには、
「いつもありがとう」
「本に対する愛着が変わりました」
「さらに素晴らしい本になって、また出会えることを願います」
など、思い思いの感謝のお言葉が綴られていました。
普段とは違う厳かな雰囲気の中、ご自身のお仕事、手がけている製品、またご自身の周りの人や身近な物について、それぞれの方が少し立ち止まり、想いを馳せる。
そんなお時間になっていれば幸いです。