ご葬儀をお手伝いしているエンディングプランナーの村重匡聡です。
お見送りの仕方。それはご家族によってさまざまですが、特にご夫婦らしい雰囲気を、肌で感じられた1件のご葬儀がありました。
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故人様は、非常におきれいで、まだお若い奥様でした。
ご夫婦ともに関西のご出身。とても気さくな仲の良いご夫婦だったと、インタビューからもうかがい知る事ができました。 奥様はもともとスポーツが好きな行動派で、芯のとてもしっかりした明るい方だったそうです。
「彼女らしいピンクの花でめいっぱいにしてあげたい」と豪華な花祭壇を希望されたほかは、「特に変った事はせんでもいいから」と笑顔でおっしゃるご主人様。胸中を察すれば、当然のことなのかもしれません。
お話をしながら、ご家族で一緒に思い出を振り返っていきました。
そこで痛切に感じたのは、ご夫婦で過ごした素敵な思い出はたくさんあったものの、ここ数年のつらい闘病生活が、ご主人の中から何気ない日常の記憶を押しやってしまっていたということです。
「思い出してみれば、元気な時はコーヒーが好きだったよね」
「そうよ、フランスパンも大好きだったじゃない」
ご家族からそんなエピソードをお伺いするうちに、ご主人様も「そういえば、そうだったな」「渋谷によく行ってたパン屋があったな。名前は…」と、と一つひとつ懐かしそうに思い起こしておられました。
「このご葬儀では、闘病中の奥様より、活動的で美しく、生き生きとしていた姿を思い出し、お別れをしていただくことが大切なのではないか」
そんな風に考えていると、ふとご主人様から、こんなご要望をいただきました。
「松田聖子の『赤いスイートピー』をかけてあげたい」
歌を口ずさみながら「この曲の歌詞と雰囲気ってええやろ?」とうれしそうにお話される喪主様が印象的で、それを聞いたご家族全員が笑い出し、温かい空気に包まれました。
私は会社に帰り、『赤いスイートピー』を聴き直してみました。
♪春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ
タバコの匂いのシャツに そっと寄りそうから
何故 知りあった日から
半年過ぎても あなたって
手も握らない
とてもご主人様らしい曲のように感じました。
そして私には、お2人がデートする姿がイメージできたような気がしたのです。
また、ご主人様が店名を思い出してくださったパン屋さんに行ってみると、一つひとつに美学をお持ちだった奥様らしいこだわりのお店で、ここでもお2人仲良く立ち寄る姿が思い浮かびました。私は、奥様が大好きだったというフランスパンを購入しました。
迎えた告別式当日。外はあいにくの雨でした。
思い出の品として、唯一お借りしたお2人の結婚式のお写真の前には、花嫁姿の奥様が手に持っていたブーケを生花で再現し、お飾りしました。
そしてご長男様にお願いして、お母様へ捧げるコーヒーを淹れていただいた時、あのフランスパンをお渡しし、供えていただけるようご案内しました。お店の名前とその存在が、ご主人に、元気だった頃の奥様の記憶を呼び起こしてくれるように祈りながら。
最後のお花入れの時、『赤いスイートピー』をお流しすることを確認したところ、ご主人は「そうやったな、そうや、そうや」と、嬉しそうに言ってくださいました。喪主挨拶では、こちらの心も芯まで温まってしまうほど、ご主人様の想いが伝わってきたことを覚えています。
そしてその時が来ました。
「ご出棺です」
『赤いスイートピー』が流れ、歌詞と共に、自然とご主人様の送る思いが伝わってくるようでした。
驚いたことに外は雨から変わり、雪が舞う中を、ちょうどこのフレーズにのせて、奥様をお連れいただくことになったのです。
♪I will follow you
あなたに付いてゆきたい
I will follow you
ちょっぴり気が弱いけど 素敵な人だから
心の岸辺に咲いた 赤いスイートピー
とても素敵で、やっぱりちょっと悲しげな瞬間でした。
私がすべてのご案内を終え、式場を出た頃には雪も止み、美しく輝く夕焼け雲が迎えてくれました。それを眺めながら、奥様の気持ちに触れることができた気がして、今でも忘れられません。
雪は想定外でしたが、あの雪があったからこそ、奥様は旅立つことができ、ご主人様のすがすがしい「よかったで、あれ」というお言葉にもつながったような気がします。